明治6年、日本の暦は太陽暦に変わりました。そしてこの明治の改暦の時から、千年以上もの間使われ続けてきた太陰太陽暦は「旧暦」と呼ばれるようになりました。
旧暦は特別に優れた暦というわけではありませんが、千年以上も日本で使われ続けた暦ですから、日本の歴史や伝統行事を考える上でその知識が欠かせません。
日々の暮らしの中に、季節に応じた旧暦の知識を取り入れることで、皆様の暮らしがもっと豊かで、楽しいものになることと思います。

太陰暦と太陽暦の二つの仕組みを持った旧暦

太陰暦と太陽暦

太陰暦は月の満ち欠けの周期を元にして暦月を区切り日を数える暦です。太陰暦はわかりやすい暦ですが、生活や農耕の上で欠くことのできない季節の巡りに対応した長さである1年をあらわすには向かない暦です。太陰暦の12か月を1年とすると、その日数は季節のめぐりである実際の1年よりおよそ11日も短くなってしまうからです。このままでは年ごとにこの日数分ずつ暦月と季節との関係がずれてしまいます。この暦月と季節とのずれを防ぐために取り入れられたのが二十四節気という太陽暦的な仕組みで、これを取り込むことで太陰暦と太陽暦の二つの仕組みを持った旧暦が生まれました。

暦月の区切り

旧暦の暦を作る際に最初に行うのは暦月を区切ることです。旧暦の暦月は新月の日に始まり次の新月の日の前日に終わりますから、暦月を区切る作業は新月の日を求める作業だということもできます。旧暦の暦月の日数は新月の日で暦月を区切る作業が済んで初めて決まります。ここまでは全く月の満ち欠けだけを用いた太陰暦的な作業です。

暦月に名前

新月の日を求めることで暦月を区切ることは出来ましたが、この段階ではそれぞれの暦月が何月になるのかはまだ決まっていません。1年が必ず12か月であれば、順に正月、2月、3月と名前を付ければよいわけですが、旧暦の1年は必ず12か月となるわけではないためです。暦月が何月になるのかは、その暦月に含まれる二十四節気によって決まります。

二十四節気は太陽の位置によってその節入りの日付を求める全く太陽暦的仕組みです。二十四節気には節気と中気の別があり、これが交互に並んでいて、その中の中気だけが旧暦の暦月の名前を決めるために使われます。中気は雨水、春分、穀雨、小満、夏至、大暑、処暑、秋分、霜降、小雪、冬至、大寒の12あり、それぞれ正月中、二月中などとも呼ばれます。旧暦の月の名前は原則としてその暦月に含まれる中気により、正月中を含む暦月は正月、二月中を含む暦月は2月のように決められます。

旧暦の正月

よく「旧暦の正月は立春の頃」などといわれますが、実際に旧暦の正月を決めるものは節気である立春ではなく、立春の後に来る中気の雨水の方なのです。

如月(2月)

節分 (せつぶん)

節分は季節を分ける日という意味で、暦の上の季節の最後の日がこれに当たります。本来は四季それぞれに節分があるのですが、現在は立春の前日の節分だけが節分だと考えられるようになっています。今年は2月3日がその日に当たります。この日には寺社や個人の家々で「鬼は外、福は内」の掛け声に合わせて豆まきが行われます。また、イワシの頭を焼いて豆殻に刺し、柊の枝と一緒に戸口などに挿す「焼きかがし」という行事を行う地方もあります。どちらも冬の陰気を祓い邪気を遠ざけ、新しい春を迎えるための行事です。

事八日(ことようか)

2月8日は「事八日」、または「お事始め」とよばれる日です。この日は正月道具を片付け、農作業を始める日とされています。1年間無事に働けるようにと、この日には無病息災を願い、里芋、ごぼう、大根、人参、小豆、豆腐などを入れた「お事汁」を作り、食べる風習があります。

雨水(うすい)

二十四節気の正月中です。今年は2月19日〜3月5日までが雨水の期間です。雨水とは、冬が終わり天から降るものが雪から雨に変わり、積もった雪も解けて水となるころという意味の言葉で、旧暦ではこの雨水の節入りの日を含む暦月を正月とします。

弥生(3月)

雛祭り(ひなまつり)

3月3日に行われる女児の節供で「桃の節供」ともよばれます。もともとは3月の上旬の巳の日の節供であったことから「上巳の節供」とよばれました。その始まりは身についた穢れをはらうために行った水辺での禊行事だったと考えられます。雛祭りという言葉のもとになった雛人形も、自らの身についた穢れを移して川や海に流した身代わり紙の人形、流し雛がその始まりだと考えられます。

御水取り(おみずとり)

「御水取り」は奈良に春を告げる行事として知られる東大寺修二会の行事の一部でもあり、また行事全体を示す通称でもあります。修二会は仏を供養するために行われた行事といわれ、もともとは旧暦の2月に行われていたものです。

東大寺修二会は752年から続く行事で、現在は3月1日から14日の期間に行われています。御水取りは、13日の未明に二月堂の堂前の若狭井の水を汲み、加持祈祷して香水とする行事です。

彼岸(ひがん)

春分の日を中日とし、その前後3日を合わせた7日間を彼岸といいます(今年は3月18日〜24日)。彼岸は暦の上では「雑節」と呼ばれるものの一つで、中国から伝えられた暦にはなく、日本で新たに暦に書き加えられるようになった行事です。彼岸には先祖の霊を敬い供養するために墓参りをし、仏壇にはぼた餅などを供える風習があります。またこの時期には各地の寺院で彼岸会とよばれる法要や説法が行われます。