日本沿岸には黒潮と親潮が流れています。そのお陰で海の中は変化に富み、魚類や生物が豊かなのです。冬季には北海道に流氷が漂着するので「流氷ダイビング」が可能ですし、沖縄では「サンゴ礁ダイビング」ができます。こんなことができる国は日本だけです。ここでは、個性豊かな日本の海に生息する魚を紹介していきます。
大方洋二(水中写真家)

いつもペアで行動。オスとメスとも外見は同じです。

サンゴ礁でエサを探すトゲチョウチョウウオのペア(沖縄)

サンゴ礁の海には鮮やかな魚がたくさんいます。その代表はチョウチョウウオの仲間。蝶のようにヒラヒラ泳ぐ姿が由来です。日本には約50種生息しており、中でも沖縄でよく見られるのはトゲチョウチョウウオです。背びれの一部が細長く伸びるのを「トゲ」と見立てたようです。相模湾以南の太平洋、インド洋に分布しています。大きさは20センチほどで、いつもペアで行動しています。ペアといってもオスとメスは外見が同じです。

5~6匹で行動する珍しい光景(奄美)

トゲチョウチョウウオのエサは、サンゴのポリプや小さな甲殻類、ゴカイ類などです。縄張りを移動しながらしょっちゅう探しては食べています。ペアでいるメリットは、繁殖相手が常に近くにいること、縄張りの主張や防衛がしやすいこと、また、外敵に追われた場合、別方向に逃げることで追っ手を惑わすことができます。離れ離れになっても体色や模様が際立っているお陰で、合流するのも簡単なのです。

5~6匹で行動する珍しい光景(奄美

本種の繁殖行動は知られていませんが、幼魚はサンゴ礁域の入江や本州沿岸で見られます。ふ化した仔魚が黒潮に運ばれて来るのです。幼魚はほとんど単独でいます。成魚に見られる「トゲ」はありませんが、腹びれをいつも広げています。また、黄色の部分がやや濃く、大きな黒い斑紋が入っています。九州以北の幼魚は、冬季の低水温には耐えられないので越冬できません。

いつも腹びれを広げている約3センチの幼魚(奄美)

成魚のペアが行動中、同種のペアと鉢合わせすることがあります。そうした場合は争いになりますが、すぐに侵入者は出て落着します。同種なので、傷つけ合うことはないようです。ペア同士が出会うと争いになるはずなのですが、5~6匹が一緒に行動していたことがあります。争っている様子ではありませんので、もしかしたら繁殖行動に関することかもしれません。まだまだ知らないことが多い魚の世界なのです。

警戒心はあまりなく、かなり接近できます(沖縄)