雪深い山里の暮らしに思いを馳せる。世界遺産・合掌集落の民宿。
文 : 佐々木 節 Takashi Sasaki / 写真 : 平島 格 Kaku Hirashima
囲炉裏端での会話が楽しい世界遺産・合掌造りの宿。
お祈りの合わせた手のような、急勾配の茅葺き屋根を載せた合掌家屋は、農地が乏しく、雪深い山村で養蚕を営むために生まれた建築様式だといわれています。風通しのいい屋根裏は何層にも分かれていて、そこでカイコを育てていたのです。
富山県の最南部、岐阜県との県境近くに位置する南砺市相倉地区は、人口100人足らず、周囲を山に囲まれた小さな集落です。ここは世界遺産になった『白川郷・五箇山の合掌集落』のひとつで、集落内には21棟の合掌家屋が残っています。
白川郷や五箇山にある合掌民宿のなかでも、この庄七は人気のお宿。その魅力は、築200年の貴重な世界遺産の家に泊まれることばかりでなく、昔ながらの山村の暮らしを身近に体験できることにあります。
合掌造りで過ごす夜はなによりも贅沢なひととき。
夕食に並ぶのは、炭火でじっくり炙ったイワナや採れたて野菜。さらに自家製の漬け物、季節によってはキノコや山菜もたっぷり味わえます。そして、何より楽しいのは、気さくなご主人やその母・きよさんと過ごす囲炉裏端でのひととき。そこで相倉の昔話を聞いていると、まるで子ども時代に訪ねた親戚の家にいるような気分になってきます。
「このあたりの合掌造りは床下が1メートル近くもあるんですよ。どうしてだかご存じですか?」
夕食後の囲炉裏端でこんな話題を切りだしたのはご主人の池端良公さんでした。
「江戸時代、加賀藩領だった相倉では塩硝作りが行われていました。ところがお隣の白川郷は天領。幕府に知られないよう、作業は床下でこっそりやってたんですよ」
白川郷や五箇山で盛んだったのが塩硝作り。ヨモギや稗殻、カイコの糞などを地中に埋めて5年ほど寝かすと、バクテリアの作用でできるのが火薬の原料、塩硝でした。この隠れた産業があったからこそ、米の穫れない山村にこれほど大きく立派な合掌家屋が建てられたのだという説もあります。
かつては修学旅行の1クラス、40名以上の生徒や先生を泊めることもあったという庄七ですが、現在、受け入れているのは1日2組(最大10名)まで。きよさんは「年をとると、大勢の料理を作るのは大変でね……」と言いますが、そのぶん、お客は静かで、のんびりしたひとときを過ごすことができます。
世界遺産『白川郷・五箇山の合掌集落』
白川郷・五箇山の合掌造り集落が世界遺産に登録されたのは平成7年(1995年)のことでした。当時、国内の世界文化遺産には、法隆寺、姫路城、京都の社寺があり、合掌集落は4件目の登録でしたが、史跡でも、神社仏閣でもない、一般の人々が住み続けている『家』が世界遺産になったことは、画期的な出来事でした。現在、合掌造りの宿は白川郷に16軒、五箇山・菅沼集落に2軒、相倉集落に7軒営業しています。
合掌のお宿 庄七
富山県南砺市相倉421
☎0763・66・2206
http://www.syo-7.jp/
客室数:4室
チェックイン15:00/チェックアウト10:00
宿泊料:1泊2食付12,600円(平日)~
アクセス:JR城端線・城端駅から五箇山行きバス25分
東海北陸道・五箇山ICから約12㎞/20分