テクノロジーの粋を集めて造られた水力発電ダム」は、
そこにある自然と見事に融合して雄大な造形美を現出しています。
ここでは、その水力発電ダムの魅力をシリーズでお伝えします。
今回は重要文化材にもなっている群馬県の丸沼ダムです。

日光国立公園内に

エメラルドグリーンの湖面が周囲の山肌の緑を映す、古風で風変わりなダムが群馬県の片品村にある。発電用の「丸沼ダム」だ。

17世紀に噴火した白根山。片品村には溶岩流が河川をせき止めてできた自然湖が3つある。自然湖の丸沼湖を発電専用ダムとして活用しようと東京電燈(東京電力の前身)が建設した。二つの自然湖に挟まれて人造湖・丸沼ダムは1930(昭和5年)に完成した。

ダムには様々なタイプがある。巨大なコンクリートの構造物を谷あいに作り構造物の重さで水流を受け止める「コンクリート重力式ダム」、湾曲にしなったコンクリート壁を谷あいに建設し、両岸の岩盤で水圧を支える「コンクリートアーチ式ダム」、谷あいに巨大な岩石や砂利で巨大なピラミッドを作り流水をせき止める「フィルタイプダム」などが一般的には知られている。

丸沼ダムに採用された「バットレス式ダム」は、これらのダムのそれぞれの長所を取り入れたユニークな構造をしている。岩盤に固定したコンクリート製の止水壁を鉄筋コンクリート製の扶壁(バットレス)で支える独特の構造で、扶壁式ダムとも呼ばれている。

下流からダムを眺めると、岩盤に固定された垂直扶壁がいくつも連なり、それぞれを梁(はり)に相当する水平扶壁で連結し強度を保っている。縦横の鉄筋コンクリート製扶壁がきれいな格子状をしている。外観は緑の中のジャングルジムの様にも見える。

バットレス方式ダムが建設されたのは、水力発電が盛んになった大正から昭和の初期にかけての時期だ。当時は建設が容易な重力式コンクリートダムが主流だったが、モノ不足が深刻で材料のセメントが手に入らずコンクリート量を減らせるバットレスダムが注目され始めたのです。

だがバットレスダムには難点もありました。設計・建設に高度な技術を要すること、寒冷地ではコンクリートの保守が難しいこと、構造上地震に弱いことなどだ。このため、全国で建設されたのは8カ所のみで、現存するのは丸沼ダムを含めて6カ所だけという希少なダムだ。

2003年に重要文化財に

バットレス式の丸沼ダムは、高さ(堤高)は32.1メートル、ダム堤の幅(ダム堤頂長)は82.2メートル、貯水容量1360万立方メートル。今では小さなダムだが当時としては日本一の大ダムだった。丸沼ダムの水は下流の一ノ瀬発電所(10,700kW)に送水し発電している。

丸沼周辺には他に二つの発電用ダムがある。上流側に菅沼、下流側に大尻沼だ。大尻沼水は丸沼と同様、一ノ瀬へ送水する調整池として活用されている。菅沼と丸沼の間に丸沼発電所があり、放流水は丸沼ダムに流れ込み有効利用を図っている。

丸沼ダムは昭和初期に東京電燈により建設されたが、太平洋戦争中は国家統制により日本発送電に移管された。しかし終戦後、日本発送電が解体され、電力再編成により1950年、東京電力に再び移管され今日に至っている。大正・昭和・平成・令和と波乱万丈の歴史を刻み、今も働き続けている。

現存する6ダムのうち原形をとどめているのは丸沼ダムだけで、他のダムは改修工事の度に大胆な補修や設計変更が行われ様変わりしている。丸沼ダムは90年たったいまも当時の意匠のままだ。

ダムの規模も堤高も貯水容量も当時としては日本一を誇っていたことから、土木学会から高い歴史的評価を受けている。2003年には国の重要文化財に指定された。発電用ダムが指定されたのは初めてのこと。ちなみに丸沼ダムの設計は北海道電力の初代社長・会長の岩本常次氏によるものだ。

香川の豊稔池ダムも絶品

丸沼ダムの他、バットレスダムとして残っているのは★恩原ダム(岡山県鏡野町 吉井川恩原川)、★笹流ダム(北海道函館市 亀田川笹流川)、★真川調整池(富山県富山市 常願寺川牛首谷川)、★真立ダム(富山県富山市 常願寺川マッタテ川)、★三滝ダム(鳥取県智頭町 千代川北股川)の5つだ。

いずれも一見の価値あるバットレスダム。純粋なバットレスダムではないが、美しさという点では四国・香川県にある「豊稔池ダム」がお勧めだ。このダムは堤長145メートル、高さ30メートルのコンクリート造溜池堰堤で両脚部が重力式、中央部が5連のアーチと6個の扶壁(バットレス)からなるマルチプルアーチ式ダムで希少な構造形式だ。昭和初期の堰堤建設の高い技術的達成度を示していると、平成8年重要文化財(建造物)に指定された。

下から眺めると石積みのダムは粗石むき出しのアーチはごつごつしていて、年月を重ねて苔むし、その風情は中世ヨーロッパの古城を思わせる。今では周囲の山あいの景観とすっかり調和して四国の観光名所となっている。

丸沼ダム

・住所:群馬県利根郡片品村の利根川水系片品川左支・大滝川

・アクセス:
丸沼ダムへは車で行くのが最も便利。
東北自動車道を使う方法と関越自動車道を使う方法があります。

文: 藤森禮一郎 Reiichiro Fujimori

エネルギー問題評論家。中央大学法学部卒。電気新聞入社、編集局長、論説主幹、特別編集委員を経て2010年より現職。電力問題のコメンテーターとしてテレビ、雑誌などでも活躍中。主な著書に『電力系統をやさしく科学する』、『知ってナットク原子力』、『データ通信をやさしく科学する』、『身近な電気のクエスション』、『火力発電、温暖化を防ぐカギのカギ』、『電気の未来、スマートグリッド』(いずれも電気新聞刊)など多数。