日本全国、それぞれの地域で伝承されてきた郷土菓子。そこで育った人には、幼い頃の思い出とともに甘く切なく蘇り、初めて見る人には、その名前や色形が旅情をかきたてることでしょう。ふるさとへ誘う、むかし懐かしい郷土菓子をご紹介します。
江戸時代には五街道が整い、旅人でにぎわう東海道や中山道の宿場町には名物お菓子がたくさん登場。峠越えに力をつける名物餅や土産菓子なども、このころから生まれ始めました。

新潟県:丸鯛

新潟県の内陸部に位置する小さな町、栃尾町の菓子店には食べるのが惜しいほど愛いらしい丸い鯛の砂糖菓子「丸鯛」が並びます。結婚式や節句のお祝い菓子として、また普段でもお客さまへのお茶菓子として登場する郷土菓子。丸い形は「あんこの部分が均等に分けられる」から。さらに和みの形だからだといいます。(協力:おさべ菓子店 ☎0258・52・2576)

            

長野県:栗落雁

長野県小布施市は栗の名産地。室町時代に始まっていたという栗栽培の歴史とともに栗羊かん、栗最中などさまざまなお菓子が生まれてきました。本来えんどう豆などを使って作られることが多い落雁も、ここでは栗を使って作られます。栗本来のしっかりした甘みが感じられる上品な味わいです。(協力:小布施堂 ☎026・247・2027)

                     

山梨県:信玄餅

餅米粉に砂糖や水あめを加えて柔らかく仕上げた餅(求肥)に、きな粉と黒蜜を付けて食べる和菓子。その起源には信玄公が兵糧として砂糖入りの甘い餅を携えたのが始まりとか、静岡の安倍川餅が由来など諸説あり、今では全国でもおなじみの甲州名物となっています。(協力:金精軒 ☎0551・25・3990)

                  

岐阜県:みそ入大垣せんべい

水の都、大垣は水まんじゅうなど夏の涼菓で有名だが、幕末から伝わる「みそせんべい」も人気。岐阜県産小麦粉に、糀から自社で作った塩分の少ないまろやかな風味の味噌、それに砂糖、ゴマ、水だけで練った生地で1枚ずつ手焼きされます。見事な艶を放ち、卵を使わないので硬い独特の歯ごたえが特徴です。(協力:田中家せんべい総本家 ☎0584・78・3583) 

                  

静岡県:葛湯

静岡県掛川市はその昔、山野に自生する葛の繊維を織った葛布(くずふ)を生産していたところ。そのおり葛の根を葛粉にし、四角く固めて軒先に吊るしていた様子が豆腐の形に似ていることから「一丁、二丁」と数えたのが「丁葛(ちょうくず=葛湯)」の由来。お湯を注いで好みのとろみ加減に。白葛、生姜、柚子、茶、汁粉など。(協力:桂花園 ☎0537・22・2607)

         

愛知県:生せんべい

まるで名古屋のういろうのように柔らかな食感。それでも「せんべい」というのは、桶狭間の戦いにやぶれて知多半島へ逃れてきた徳川家康が、空腹のため農家の軒先に下がっていた半生のせんべいをおいしそうに頬張ったからとか。製粉した米を蒸して団子状にし、黒糖、上白糖、ハチミツを加えて薄く延ばして作ります。(協力:総本家田中家 ☎0569・21・1594)

           

富山県:月世界

鶏卵と和三盆、寒天に白双糖(白ザラメ)を煮詰めた蜜を加えて乾燥させた軽やかなお菓子。白いカステラのごとき一片を口に含むとしずかにほろけて、あとにほのかな卵と砂糖の甘味が残るのがなんともやさしい。「月世界」とは、暁の空の淡い月影とその美しい表情にちなんでつけられた名前です。(協力:月世界本舗 ☎076・421・2398) 

           

石川県:柚餅子(ゆべし)

平安時代に記録が残る日本古来の和菓子で、当時は保存食や携帯食として食べられたそう。丸ごと1個の柚子の中身をくりぬき、味付けした餅米を詰めてから何度も蒸し、さらに約半年自然乾燥させて作る非常に手の込んだもので、飴色の輝きや柚子の芳香は絶品。日本料理の食材としても珍重されています。(協力:柚餅子総本家 中浦屋 ☎0768・22・0131)

          

福井県:丁稚羊かん

みずみずしくて甘さ控えめ、いくつでも食べられそうな軽い口当たりの水羊かんで、福井県では冬に食べるのが特徴。その名前の由来は「普通の羊かんより薄いので丁稚のように半人前」とか「京都に奉公に出した子どもが里帰りに持たされるから」「丁稚でも作れるから」と諸説あります。(協力:夢菓子創造 うえだ ☎0770・52・2292)