小笠原流礼法で最も重要なことは、相手を大切に思う「こころ」です。
そのこころを、合理性と美しさで表現したのが、作法、すなわち「かたち」なのです。
礼法をまなぶことで日本人は、職場、訪問先や冠婚葬祭の場において、
女性はより美しくエレガントに、男性は凜々しくスマートにふるまうことができます。
今回は、正しい箸遣いについてご説明します。

箸遣いのマナー

お箸遣いに自信を持てない、というお話とともに、正しいお箸遣いでなくても食事を進めることはできる、というご意見を伺うこともあります。しかし、なるべくなら正しいお箸遣いを身につけるほうが好ましく、その理由をいくつか挙げてみたいと思います。

まず食事をすることへの感謝のこころを表すには、正しいお箸遣いで美しく食事を進めようという気持ちをもつことです。日本以外にもお箸を用いる国はありますが、スプーンやれんげなどお箸以外の道具を使用することなく食事をする日本においては、できる限り箸先に力を入れやすくして、お料理を細かく切ったり、裂いたり、取り上げたりしなければなりません。それには、正しいお箸の持ち方が必要となるわけです。

また、いかに一口分にふさわしい分量を口に運ぶかということが、美しい姿で食事をしているか否かを決定する要素となります。おそばやラーメンなどを食べるさい、食事の作法など必要ないと考えられてしまいがちなのですが、お箸で一口分以上の量の麺を器から取り上げ、途中で噛み切る姿は決して美しい姿とはいえません。カジュアルな場であっても他者に不快な印象を与えることだけは避けなければならない。それが、おとなとして持つべき心得なのではないでしょうか。

さて、正しいお箸遣いと扱い方は次の通りです。

お箸の持ち方。
上のお箸は人差し指と中指ではさみ、親指で支える。
下のお箸は親指と人差し指の付け根に挟み、薬指で支えて固定する。

お箸の取り上げ方。
1.お箸を右手で上から取り上げる。
2.すぐに左手で下から支える。
3.右手をお箸から離さないようにしながら右側へすべらせる。
4.5. 右手を下に回して持ち直す。

器とお箸の扱い方。
お箸と器を同時に取り上げることは、嫌い箸と呼ばれるひとつです。
次のようにそれぞれを取り上げましょう。
6.器を取り上げて、左手のひらにのせて安定するようにしっかり持つ。
7.8.右手でお箸を取り上げて、左手の人差し指、中指の間にはさむ。
9.右手をお箸から離さないようにしながら右側へすべらせ、下に回して持ち直す。
10.お箸から左手を離す。

なお、渡し箸(器に箸をかけて置く)、刺し箸(食べ物に箸を突き刺す)、寄せ箸(箸で器を引き寄せる)、ねぶり箸(箸先をなめる)、探り箸(盛り付けてある料理を崩して食べたい食材を下から引き出す)などは、嫌い箸と呼ばれ、望ましくないお箸遣いです。日々、用いることの多いお箸遣いをぜひ見直していただきたいと思います。