暦の月の日数は多い月と少ない月があり、
日数の多い月を大の月、少ない月を小の月とよんで区別します。

西向く士

皆さんは「西向く士小の月」という言葉をご存じでしょうか。暦の月の日数は31日のこともあれば30日、あるいは28日や29日ということもあります。現在は31日の月を大の月、その他の月を小の月と区別していますが、その大小の月の並び方には規則性がなく覚えにくいものです。そこで登場するのが「西向く士」です。この言葉は語呂合わせで何月が小の月になるかを示しています。「ニシムク」で二・四・六・九月を、士は十と一の組み合せと考えて十一月を表し、これらの月が小の月になることを表しています。このように一年の月の大小の並びを覚えやすい言葉や絵で示したものを、大小暦、あるいは単に大小といいます。

大小暦の始まり

大小暦が作られるようになったのは、江戸時代の貞享〜元禄の頃(西暦1684年頃)からといわれます。このころから、毎年11月になって翌年の暦が売り出されるようになると趣味人たちが趣向を凝らして月の大小を言葉や絵で表し、その出来を競い合うようになりました。
私たちが使っている新暦では月の大小の並びは毎年同じです。ですから、新暦を使うようになってからはずっと「西向く士」が一人いれば事足りたのですが、旧暦では事情が違うのです。旧暦の月の日数は、平均およそ
29・5日で繰り返される天体の月の満ち欠けの周期に基づいているので自然に30日(大の月)と29日(小の
月)の二通りになりました。この点はわかりやすくてよいのですが、実際の月の満ち欠けに基づいているために月の大小の並びは一定せず、年ごとに異なるものになってしまいます。年ごとに月の大小の並びが変わるために大小暦の作者たちは年ごとに知恵を絞って新作を考えたのです。旧暦時代にはこうして様々な大小暦が生み出
されました。

来年の話をすると鬼が笑う?

「来年の4月は小の月ですか?」新暦であれば答は簡単、「はい」の一言で済みます。ですが旧暦ではそう簡単には答えることが出来ません。来年の4月が小の月か否かを知るためには、月と太陽の正確な位置関係を計算して求めなければならないからです。普通の人にはそんなことは不可能でしたから、次の年の月の大小は、暦が11
月に売り出されるまでわかりませんでした。旧暦時代に来年の話をすることは本当に鬼が笑うようなことだったのかもしれません。だって、月の大小もわからない来年の話なのですから。

旧暦のある暮らし 【水無月と文月】

【水無月・6月】

■衣更え(ころもがえ)

6月に入ると制服のある学校や職場では衣更えが行われます。暗い色合いの冬服が明るい色の夏服にかわり、街のながめも明るくなるようです。衣更えは平安時代から旧暦の4月1日に宮中で行われていた更衣という行事が広がったもので、明治時代に新暦の6月に行われるようになりました。もともとの更衣は、季節に合わせて衣服をかえるだけでなく、調度品まで冬物から夏物にかえたそうですから、なかなかの大仕事だったようです。

■薬日(くすりび) 薬玉(くすだま)

6月2日は旧暦の端午の節供で、この日を薬日といいます。この日は山野に出て薬草や香りのよい草を集め、それを錦の袋などにつめて簾や柱につるしました。これが薬玉の始まりです。この時期は気温も湿度も高く、ものが傷みやすく腐りやすい。薬玉はものを傷めるそうした悪い気を薬草の芳香で追払おうと考え出されたものでした。

■入梅(にゅうばい)

6月も後半となると各地から梅雨入りの知らせが届くようになります。現在は梅雨入りの時期を気象庁が知らせてくれますが、長期の気象予報など出来なかった昔は暦の上に書き込まれた「入梅」の日が目安となっていました。暦の上の入梅の日は古くは「芒種の後の最初の壬の日」と決められており、現在は太陽の位置によって決められます。今年はどちらの方式でも6月11日が暦の上の入梅の日です。

【文月・7月】

■半夏生(はんげしょう)

七十二候の一つに「半夏生ず」があります。半夏という毒草が生える日という意味です。この日には天地に毒気が満ちると考えられ、外出や農作業などはひかえられました。また、遅くともこの日までには田植えを終えなければならない日とも考えられていました。福井県ではこの日に半夏鯖といって鯖を食べる風習があります。また京都では蛸を、香川ではうどんを食べるのだとか。田植えを終えた祝いのご馳走なのでしょうか。

■七夕(たなばた)

七夕の夜には、天の川に隔てられた牽牛と織女が一年に一度だけ、天の川を渡って逢うことのできる日です。ですが、この日に雨が降ると、二人は逢うことができないのだとか。七夕は7月7日という日付に固定された節供ですので、今では多くの地域で新暦の7月7日に行われるようになっていますが、新暦のこの時期は梅雨の最中で雨が多い。牽牛と織女にとっては、旧暦の7月7日(新暦の8月2日)の方が望ましいのではないでしょうか。

■土用の丑の日(どようのうしのひ)

7月20日〜8月6日の間が夏の土用です。土用は四季それぞれの間にあり、季節と季節の交代を円滑にするための期間です。さて、夏の土用といえば土用の丑の日の鰻が浮かびます。鰻は玄い魚。中国の五行説では、「夏」は火の気をもち、「丑」「魚」「玄」はいずれも水の気をもつものとされています。暑さ厳しい土用の丑の日に
鰻を食べることには、強すぎる夏(火の気)の勢いを水の気で抑え、秋に向かわせるという呪術的な意
味があるようです。