日本全国、それぞれの地域で伝承されてきた郷土菓子。そこで育った人には、幼い頃の思い出とともに甘く切なく蘇り、初めて見る人には、その名前や色形が旅情をかきたてることでしょう。ふるさとへ誘う、むかし懐かしい郷土菓子をご紹介します。
どこの地方も伝統お菓子の話題になると、「うちのが一番うまい」とお国自慢。江戸のお殿様が召し上がった献上菓子ともなればなおさらです。
取材・文 : 富山紀子 Noriko Tomiyama / 写真 : 新美 勝 Masaru Niimi
Keyword : のし梅 / ぴーなっつ最中 / へらへら団子 / 日光酒饅頭 / 焼きまんじゅう / 芋せんべい / 甘納豆
茨城県:のし梅
琥珀色した梅肉ゼリーを炭火乾燥させ、竹の皮に挟んだ甘酸っぱいゼリー菓子。もとは中国から胃薬や気付け薬として伝来したものが、時代を経て寒天などを上手に組み合わせたゼリー菓子に進化したのだそう。梅の産地ならではの郷土菓子で、ほかにも山形県、和歌山県に同様のお菓子が見られます。井熊総本家 ☎029・221・2605
栃木県:日光酒饅頭
世界遺産「日光の社寺」の門前に店を構える〈湯沢屋〉の名物。糀の発酵力を利用して小麦粉を柔らかく膨らませる製法は中国伝来で、「酒饅頭」はさまざまある饅頭の元祖ともいわれます。「糀」ではなく「酒」の文字が使われるのは製造工程が酒造りの途中までとそっくりだから。湯沢屋 ☎0288・54・0038
群馬県:焼きまんじゅう
小麦の産地、北関東に伝わる郷土食ですが、とくに群馬県ではイベントやお祭りの屋台などでおなじみ。小麦粉にどぶろくを混ぜて練ったという生地(す饅頭・今は重曹などを使う)はまるでパンのようにフカフカでやさしい食感。焼きたてに、黒砂糖や水あめを加えた濃い味噌だれを塗って食べます。福島屋焼きまんじゅう店 ☎0270・74・5632
埼玉県:芋せんべい
江戸時代の川越は「九里四里(栗より)うまい十三里」と謳われたさつまいもの名産地。当時の芋菓子は高級品だったという。薄くスライスした芋を両面焼き、表面に生姜風味の糖蜜をかけた「いもせんべい」は今、小江戸川越の「菓子屋横丁」で人気の庶民的なおやつです。松陸製菓 ☎049・222・1577
千葉県:ぴーなっつ最中
落花生の殻そっくりの形に焼かれた皮に、落花生の甘煮を練り込んだ白あんがぎっしり詰まった愛らしい最中。まさに落花生の生産量日本一を誇る千葉県を代表する和菓子です。成田山新勝寺門前に店を構える老舗〈なごみの米屋〉が考案したお菓子で、今では千葉のお土産としてすっかりおなじみのもの。なごみの米屋 ☎0120・482・074
東京都:甘納豆
江戸の町で庶民に人気を博したスイーツといえば、飴にきんつばに甘納豆。とくに甘納豆は糖蜜の上品な甘さと豆の美しい色、さらに豆の栄養価も高いともてはやされました。当初使われた豆は金時ササゲ。今ではおたふく豆、えんどう豆、虎豆、栗や蓮の実など実に多彩でさらに美しい。銀座鈴屋 ☎0120・041・710
神奈川県:へらへら団子
実にユニークなネーミングの団子は、現在の横須賀市佐島地区に伝わる郷土菓子。小麦粉と上新粉を練って作った団子を平たく伸ばしてちぎり、あんこをからめたもので「佐島船祭り」の際、参加者にさっと食べてもらうようこの形になったそう。「へらへら」とはまさにこの団子の形が由来です。和洋菓子 大そね ☎046・857・5512