人が自然と共に,作り上げた文化的景観・棚田。
「一心一写」放浪の写真家が切り取った日本の原風景。

自然と人の営みが育んできた美しい棚田

日本では、戦後食生活が欧米化して、コメの消費量が減った。それにともなって、山間僻地にある棚田は、生産効率が悪いと年々つぶされてきた。しかしここ十数年、棚田に対しての感心が高まってきた。皮肉なことに、なくなってみてはじめて棚田の重要性が再認識されてきたのである。

最近では、米を作る生産現場としてばかりではなく、伝統的な文化遺産として、また国土保全の機能をもつ「緑のダム」として、また生物多様性をはぐくむ場所として、棚田はその多機能性が再評価されている。

1999年には農水省によって「日本の棚田百選」が認定された。棚田の維持、保存活動が本格化した年である。

大山千枚田は「棚田百選」に認定された棚田で、東京都心からも比較的近く(東京駅から約92km、車で約2時間)、時折大型バスもやってくるほどの観光スポットでもある。千葉県鴨川市の中心部から西へ約14キロに位置する山間部にあり、東南を向いた斜面に375枚の田んぼがひろがっている。

ここは水源を持たない天水(雨水)だけに頼る棚田で、日本全国の「棚田百選」の中でも珍しい。そのため生物多様性の宝庫でもある。平成14年には、千葉県指定名勝にもなった。

大山千枚田の12月

里山の風景に接し、共生することの大切さを感じて

水を張った春の棚田、青々とした夏の棚田、収穫を迎えた黄金色に輝く秋の棚田の美しさはもちろんだが、稲が刈り取られたあとの冬枯れた棚田も趣があり、四季それぞれ違った表情を楽しめるのも棚田の良さだろう。

大山千枚田の保全と活用を図るため、1997年に大山千枚田保存会が結成され、様々な活動がスタートした。

2000年3月には「大山千枚田オーナー制度」が発足した。田植、稲刈りなどの農作業に参加し、収穫したコメを得られる作業参加・交流型の「棚田オーナー制度」は、スタートと同時に大きな反響を呼び、初年度は39組の棚田オーナーが参加した。大山千枚田は都会から近いという理由もあり、棚田オーナーへの応募者も次第に増加し、現在は約136組がコメ作りに取り組むようになった。

そして大山千枚田は、ユニークな棚田保存活動を行っているバレエ団があるところとしても知られている。『里舞(さとまい)』という里山をテーマにしたバレエである。

『里舞』は2002年の棚田サミット(全国の棚田で毎年開かれているイベント)が鴨川市で開催された時に創作されたもので、現在の活動としては大山千枚田のイベントのときに演じられたり、2014年には東京都内のホールでも公演を果たした。2015年には『里舞』の活動が評価され「棚田学会賞」を受賞した。

バレエ団を主宰する長村順子さんは『里舞』について、「里に生きる生き物たちと人々の心象風景を、独特な方法で表した“人と自然の叙事詩”のような作品です」という。

「棚田は、幾世代もの人々が山の斜面を耕し、修復しながら稲作を行ってきた場所です。棚田の曲線を見ると、人々の叡知を感じます。そこは奥山と平地の間にある“里山”と呼ばれる所です。“里山”には、木々や草花や昆虫や鳥や獣などたくさんの生き物たちがいます。“里山”でのくらしは、この自然を受け入れることで、自分が活かされることです」

棚田文化を、バレエという芸術表現をもって側面から支援する活動は、全国的にもめずらしい。

『里舞』には優雅だが力強さも感じる。ダンサーは “里山”に生まれた子供たちと子育てをしてきた女性たちである。『里舞』が単なる芸術作品ではなくて、実際の土地に根差した作品であるところが評価されている点でもあるだろう。

『里舞』という芸術活動は、棚田に馴染みのなかった人にも、新しい導入口として機能しているようである。

大山千枚田の4月