四季の彩り豊かな日本は美しい庭園づくりに適した自然に恵まれ、各地に優れた作品がいくつも残されています。それぞれに確かな理念とこだわりがあり、つくり手の熱意がにじみ、訪れる人々を魅了します。全国の素晴らしい名庭を訪ねてみませんか?

わが国最初の史跡・特別名勝指定の名庭

古くから上流階級が別荘を営んだ嵯峨野の地。鎌倉時代には後嵯峨天皇の離宮亀山殿があり、室町時代始めに足利尊氏が夢窓疎石の勧めでその跡地に建立したのが天龍寺で、天龍寺船による元との貿易で費用を調達したことはよく知られています。 当時の寺地は現在の亀山や嵐山渡月橋一帯を含むほど広大で、疎石はその自然景観を作庭に取り込む構想を抱いて天龍寺十景を定めました。

庭園は方丈の西に位置し、その中心に曹源池(そうげんち)と称する池が広がり、西岸奥の斜面の裾に龍門瀑形式の滝石組が築かれています。

石組の中央に見られるのは鯉魚石(りぎょせき)で、その由来は鯉が滝を飛び越えて龍と化すという登龍門伝説にあり、これをテーマにする滝石組を龍門瀑といいます。以前はここに水が流れ滝音を響かせていましたが、現在は枯れています。

方丈前の汀から延びる出島。これが点景になり対岸の龍門瀑の眺めに奥行きをもたせている

滝の下には三枚の自然石を架け渡して三橋としていますが、これが日本庭園に導入された最初の石橋といわれます。三橋は三教を意味し、儒教、仏教、道教の三つの教えを修得してのち解脱にいたるとされ、これにちなんで三枚の石橋となりました。 この龍門瀑と石橋は、方丈からはほぼ真正面に見ることができます。つまり、これは屋内に居住まいを正してひたすら対象と向き合う座視鑑賞のためにつくられた庭で、庭を厳しい禅修行の場とする疎石の哲学を具現化した作庭といえるでしょう。

方丈対岸の龍門瀑。中央の頭部が丸みをおびた石が鯉魚石で、上段の滝を登って悟りの世界に入ろうとしている

天龍寺庭園

池泉回遊式/史跡/特別名勝

所在地:〒616-8385 京都市右京区嵯峨天龍寺芒ノ馬場町68

電話:075・881・1235

http://www.tenryuji.com/

開園時間:8時30分~17時30分(10月21日~3月20日は17時まで)

参拝料:庭園(曹源池、百花苑)500円

アクセス:
JR嵯峨野線「嵯峨嵐山駅」下車徒歩13分、京福電鉄嵐山線「嵐山駅」下車前、阪急電車「嵐山駅」下車徒歩15分、京都駅前から市バス11、28、93系統「嵐山天龍寺前」下車前、京都バス61、72、83系統「京福嵐山駅前」下車前