テクノロジーの粋を集めて造られた水力発電ダム」は、
そこにある自然と見事に融合して雄大な造形美を現出しています。
ここでは、その水力発電ダムの魅力をシリーズでお伝えします。

急峻な黒部川の最上部に位置する

今や観光地として有名な黒部ダム(くろよんダム)ですが、その所在地は3000m級の山々が連なる富山県立山町です。富山県と長野県の県境・鷲羽岳に源を発し北へ流れる黒部川は8割が深い山間を下り急峻な峡谷で知られる。豊富な水流に恵まれていることから水力発電の宝庫で、水系に関西電力は12の発電所を、北陸電力が6つの発電所を建設し運転しています。その黒部川の最上流部にあるダムが黒部ダムです。

黒部湖の紅葉

秘境の貴婦人、日本一のアーチ式ダム

ダムは標高1500mの峡谷に建設されています。ダムの堤高(高さ)186mで、堤頂長(ダムの天辺の長さ)は492mあります。ダムの高さは今も日本一です。貯水容量は約2億トン。1956年に着工して1963年に完成しています。黒部川水系の発電所で作られた電気は京阪神方面に送られています。

高さにおいても美しさにおいても、日本を代表するアーチ式ダムですが、その秘密はダムの構造にあります。黒部ダムのは「ドーム型アーチ式コンクリートダム(本体)と重力式コンクリートダム(ウイングダム)の複合型のダムです。

上から眺めると、ダム堤が中央部は弧を描いていて、山に接する両端が湖水側に折れ曲がっています。下流から見ると、貴婦人が帽子を被ったように見えて、曲線と直線が入り混じってダムの美しさを際立たせています。

ダム堤を下から見上げると、ドーム型アーチダムの特徴ですがダムが覆いかぶさってくるような怖さを体感しますが、その恐怖感を和らげてくれるのが、観光放流です。エメラルド色のダム湖の水が真っ白に変身して吹き出す様は迫力満点ですね。晴天の日には虹を観ることもできます。

黒部ダムには様々なアクセス方法が

黒部ダムへのアプローチには二つの方法があります。富山県側から立山黒部アルペンルートで入る立山ルートと、長野県の大町市から入る大町ルートですが、交通の至便さ、手軽さという点で「大町ルート」が便利で、お勧めです。

大町ルートで行く場合、拠点となるのは「扇沢駅」です。関西電力の専用電気バスの発着駅です。扇沢駅までは ①車で直行する方法、②JR大糸線を利用する方法、③長野新幹線を利用する方法、④観光バスを利用する方法―があります。

黒部湖駅とケーブルカー

車利用の場合扇沢には大きな駐車場(有料、無料)を利用できます。JR大糸線で行く場合は信濃大町駅で下車し、そこから路線バスかタクシーを利用します。予約なしでも利用できます。関東方面から長野新幹線を利用する場合は、長野駅で下車し、そこから扇沢行きの特急バスに乗車する方法があります。

立山ルートは、立山黒部アルペンルートで、立山駅からトロリーバス、ロープウェイ、ケーブルカーなど種々の乗り物を乗り継いで立山トンネルを抜けと富山川の大観望(立山側の展望台)に出ると、突然視界が開けます。鳥になったような眺めが満喫できます。

ロープウエイ

大町トンネルは資材運搬道路だった

扇沢駅からは全長約6キロの関電トンネルを電気バスで走ると20分ほどで黒部ダム駅に到着します。途中、巨大なダム建設で最も困難を極め、湧き出る流水との7か月間の困難な戦いの末に突破した「大破砕帯」跡を見ることができます。

バスを降りると黒部ダムを観るルートは二手に分かれます。左手に行き60段の階段を下るとダム堤に直接出ることができます。右に行くと220段の階段を上がって、最も高い位置から黒部ダムを一望できるダム展望台に出ます。

少々きついですがお勧めは展望台ルートです。ここから先、ダムを支える岩盤に沿って作られた展望階段を下りていくと途中、様々角度から曲線の美しいダムを展望できます。見どころは観光放流です。毎秒10トン以上の水が、日本一の高さから吹き上げています。ここでしか体感できない絶景です。

外階段の途中には、展望台、新展望広場がありますが、圧巻は一番下にあるレインボーテラスで放水を真下から放水の迫力を体感できます。風向きによっては、ミストが降りかかってきます。晴れた日には放水ミストが太陽の光をいっぱいに受けて虹がかかります。上から見たりしたから見たり、絶景です。

<周辺ガイド> 北アルプスに親しめる多彩な観光スポット

立山黒部アルペンルートの信州側の起点はJR信濃大町駅。その北東の丘陵上には北アルプスの自然の紹介、調査研究を行う大町山岳博物館があります。庭内では天然記念物のニホンカモシカや氷河時代から生き残るライチョウなど、高山にしか棲まないめずらしい動物が見られます。5月下旬以降には、高山植物の女王といわれるコマクサが花開きます。

立山連峰の眺望

駅付近には江戸時代の塩問屋の建物を利用した塩の道博物館、駅の北西5㎞ほどの大町温泉郷には古い酒造り用具や酒器を展示する酒の博物館があります。大町温泉郷はシラカバやカラマツ林の中にいで湯が点在し、アルペンルートの基地としても利用されています。

大町市北部には青木湖、中綱湖、木崎湖の仁科三湖があり、夏にはキャンプやボート遊び、ウインドサーフィン、釣り、冬にはスキーなど多彩なレジャースポットになっています。大町市を離れて南に向かうとのどかな田園風景の広がる安曇野平。北アルプスに源を発するいく筋もの流れでつくられた扇状地で、路傍のそこここに微笑ましい双対神がたたずむ道祖神の郷、近年ではさまざまなジャンルの美術館が点在するアートの郷、そして清流に育まれたワサビの産地です。風薫る季節であれば、快適なサイクリングも楽しめます。

木崎湖

富山県側からのアプローチはJR富山駅が起点になります。そこから富山地方鉄道立山線で立山駅へ、そこでケーブルカーに乗り換えて標高約950mの美女平へいたります。周囲に立山スギやブナ、ツガなどの原生林が広がる美女平から先は高原バスに揺られて約1時間、東西20㎞余に及ぶ溶岩台地を横断して標高2450mの室堂平に向かいます。

立山アルペンルートの雪の壁

バスの開通は4月下旬で、その頃はまだ大量の雪が残り10mを越える雪の壁の間をたどります。雪の壁は標高の高い室堂近くでは7月上旬まで残ります。雪の壁が消えると美女平を出発してしばらくで、左手に落差350mの称名の滝を望むことができ、晩秋には高原一帯は草紅葉に彩られます。バスの終点室堂は標高3015mの立山山頂直下の溶岩台地で、火口にできたみどりが池やみくりが池、今なお水蒸気や亜硫酸ガスを噴き出す地獄谷などの見どころがあり、夏には高山植物が一帯を賑わせます。室堂から信州側へは立山山腹を貫通するトンネルをバスで10分ほど、抜けたところが北アルプスの大パノラマが広がる大観峰です。(藤沼祐司)

室堂のみくりが池と眺望

黒部ダム

富山県立山町

文: 藤森禮一郎 Reiichiro Fujimori

エネルギー問題評論家。中央大学法学部卒。電気新聞入社、編集局長、論説主幹、特別編集委員を経て2010年より現職。電力問題のコメンテーターとしてテレビ、雑誌などでも活躍中。主な著書に『電力系統をやさしく科学する』、『知ってナットク原子力』、『データ通信をやさしく科学する』、『身近な電気のクエスション』、『火力発電、温暖化を防ぐカギのカギ』、『電気の未来、スマートグリッド』(いずれも電気新聞刊)など多数。