霊峰富士に抱かれ、豊穣な駿河湾を臨む静岡県は江戸時代の大動脈、東海道が東西を貫くところ。東の空を仰ぎ見れば、そこには東海道三大難所のひとつ、薩埵峠(さったとうげ)。「あの峠を越えて次の宿場町へ行こう!」と、東海道の宿場町をめぐる旅と相成りました。(富山紀子)

由比宿・府中宿・丸子宿を巡る

富士山を背に、富士川河口で行われる「桜えびの天日干し」は今や観光名物。早朝のセリの後、午前中に行われる。

「駿河湾に桜えびが揚がったよ〜」という声を聞きつけ、静岡市清水区にある由比漁港へ向かいました。ここは、静岡県内でも有数のサクラエビの水揚げ港なのです。 サクラエビは大変珍しい小型のエビで、日本で獲れるのはここ駿河湾だけ。漁期は3月下旬から6月までの春漁と、10月から12月までの秋漁の計2回。
普段は水深200〜500mに生息するサクラエビは夜になると水深30〜60mまで浮上してきます。その浅瀬に漂うサクラエビを細かい網にかけて捕獲するため、サクラエビ漁の船は日暮れから出航し、日付が変わる前に帰港するという夜間漁。そして早朝にセリが始まり、朝一番に鮮魚店に並びます。

由比宿 待ちに待った春の味覚。見目麗しいサクラエビ

国道1号線とそのバイパスに挟まれ、こじんまりとした由比漁港。サクラエビ漁、シラス漁の船が数多く停泊する。漁港から1本裏の「桜えび通り」にはサクラエビの専門店や、サクラエビ料理の店が立ち並び散歩コースに最適。
深海に棲む小型のサクラエビは大変傷みやすいため、お刺身で食べるのは地元ならではの贅沢。水揚げ直後に天日干しされる素干しも絶品。

由比漁港でひときわ活気があふれているのが〈浜のかきあげや〉。ここは由比漁協が直営する飲食店で、市場直送の新鮮なサクラエビを使った料理が手ごろな値段で食べられます。 一番人気は、そのままスナック感覚でかぶりつける「桜えびのかき揚げ」(1枚300円!)。

揚げたてのかき揚げは香ばしくて絶品。材料は、新鮮な生のサクラエビとてんぷら粉、小ねぎだけ。サクラエビの水分を利用してさっくり混ぜ合わせたタネを平たく均等に伸ばして揚げます。そのほか、かき揚げ丼、かき揚げうどん、桜えびドーナツなど、メニューはサクラエビ三昧です。

左はかき揚げが2枚も入ったボリュームたっぷりのかき揚げ丼。右は同じ時期に獲れる名産品しらすと合わせた「由比丼」。店の横にしつらえた屋外テーブルでどうぞ。

■浜のかきあげや

静岡市清水区由比今宿字浜1127 http://yuikou.jp/enjoy.html Tel:054-376-0001

府中宿 駿府城の城下町で「おやつ」を満喫

ただ柔らかいだけじゃないしっかりした食べごたえ。砂糖をきな粉に混ぜず、上からお好みでかけるのが珍しい。

現在のJR静岡駅と駿府城址に挟まれた、旧東海道の周辺にあった府中宿。江戸時代には、西へ向かう旅人が安倍川を渡る前に一息入れたであろう、安倍川もちの老舗〈石部屋(せきべや)〉を訪ねました。

創業時の安倍川もちは、つきたての餅にきな粉をかけただけ。近くの金山でとれる金粉とかけて「金(きん)なこ餅」と呼ばれたそう。それが次第に、きな粉に砂糖をかけたもの、あんこで包んだものと味わいも広がり、今では名物のわさびと醤油で食べる「からみ餅」も人気です。

ついた餅は、かまどで湯煎にしておくからいつでもつきたてが味わえる。ひとつひとつ手作業で作られる。

■石部屋

静岡市葵区弥勒2-5-24 http://shizuoka.mytabi.net/shizuoka/archives/sekibeya.php Tel:054-252-5698

府中宿 B級グルメとして注目の静岡おでん

静岡おでんは「しぞ〜かおでん」と発音します。もともと駄菓子屋などの店先にあって、子どもたちがおやつ代わりに食べたものだから1串60円〜100円と安価。しょうゆをつぎ足した真っ黒なお汁と、竹串で刺したスタイルが特徴で、好きな串をお皿にとったら、だし粉、青のり、カラシをつける。濃い味付けだから汁は入れないそう。明治時代創業の老舗焼き芋屋〈大やきいも〉でいただきました。

■大やきいも:静岡市葵区東草深町5-12 Tel:054-245-8862

丸子宿 伝統の「とろろめし」は優しさとパワーがいっぱい

平日に約20㎏、休日には約60㎏の自然薯を料理するという。伸ばし加減は「ごはんにかけた時、中にしみこまず上に程よくのる感じ」が目安。

安倍川を渡り、さらに東海道を西へ向かうと見えてくる、茅葺屋根の一軒家が、「とろろめし」で有名な丸子宿の〈丁子屋(ちょうじや)〉です。創業は慶長元年(1596年)。安藤広重の浮世絵に描かれ、松尾芭蕉が句を詠み、十返舎一九が「東海道中膝栗毛」で、弥次さん喜多さんに立ち寄らせた店というのですから、当時の人気がしのばれます。 創業当時と変わらない味の「とろろめし」を作り続けるのは13代目当主の柴山馨(かおる)さん。 「昔はこの近辺が天然の自然薯(じねんじょ)の名産地でした。するりとのどごし良く食べられるので人気になったのでしょう」と語ります。 昔は白米が贅沢だからと加えていた麦飯も、今では健康食。自家製味噌の味噌汁でとろろを伸ばしたやさしい味わいは、疲れた体を癒すのにぴったりです。

おろし金でおろした自然薯を丁寧にすり、しょうゆ、卵、味噌汁の順に加えてさらにやさしく伸ばしていく。味噌はすべて自家製。老舗米屋の米麹を使って1週間に3回も仕込み、専用の味噌蔵で約半年発酵させて作る。

■丁子屋

静岡市駿河区丸子7-10-10 Tel:054-258-1066 https://www.chojiya.info