新潟県頚城丘陵は棚田が多い地域として知られる。十日町市もその典型的な地域で、棚田の面積は5000ヘクタールにも及ぶ。ここは3年に1度開催される「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」の舞台のひとつだ。地域活性化の先進的なイベントで、芸術祭の中心施設であるまつだい雪国農耕文化村センター「農舞台」からは、イリヤ&エミリヤ・カバコフ作「棚田」のアート作品を望むことができる。この作品以外にも多くのアート作品が棚田や田園の中に点在し、期間中多くの観光客が訪れる。

人工物なく圧倒的スケール、「星峠の棚田」

「越後妻有 大地の芸術祭の里」の公式サイトには、「人間は自然に内包される」という理念をかかげ、美術を人間が自然と関わる術(すべ)と捉え、広大な里山を舞台に、人と自然とアートが織りなす「大地の芸術祭」を2000年にスタートしました。

とある。2001年「ふるさとイベント大賞グランプリ(総務大臣表 彰)」や、2015年「第10回エコツーリズム大賞特別賞(環境省、日本エコツーリズム協会)」などを受賞しているが、地域づくりのあり方は「妻有方式」として海外メディアでも多数紹介され高評価を得ている。

そんな棚田の中でも一番有名な棚田は、十日町市松代地域の「星峠の棚田」ではないだろうか。ここは「棚田百選」には入ってないが、写真愛好家にとっては条件がいい棚田として昔から知られていた。

2017年8月、日経新聞紙上での「コメ作りが生んだ棚田10選 里山の絶景を見に行こう」の中にも、もちろん星峠の棚田は含まれている。このランキングは、10人の棚田関係の専門家で、全国の美しい棚田を29リストアップした中から、「棚田全景の美しさ」「写真に撮りたい」などの観点から絶景の棚田を選者がそれぞれ1~10位まで選定し、集計したものだ。筆者も選者のひとりとして採点している。そしてなんと、「人工物なく圧倒的スケール 星峠の棚田」は、680ポイントを獲得して堂々の1位になったのだ。

やはり星峠の棚田の特徴を一言で表現するならば、棚田らしい景観を圧倒的なスケール感で見せてくれるところと言えるのではないだろうか。ランキングの結果で、それが筆者の主観だけではなく、客観的な事実として証明されたともいえるかもしれない。

棚田のスケールは大きく、東・南側に拓けていているので、朝日が昇るシーンは美しい。しかも朝には霧や靄が出るのだ。霧が出ると次はもっといい条件になるのではないかと期待してリピーターが増える。これは、世界一の棚田ともいわれる中国雲南省元陽県の場合も同じで、霧がリピーターを増やしていると、現地の人間は言っていた。

それと秋から春にかけて、降った水や雪融け水をためておく秋田、あるいは秋代と呼ばれる農法を行っている。このことも写真愛好家を増やす要因になっているのかもしれない。いつ訪ねても、田んぼには水が張ってあったり、稲があったりするから、積雪が多い真冬以外は、季節に囚われずに写真撮影を楽しむことができるからだ。(もっとも、真冬の棚田も魅力的ではあるのだが)

2009年「第一五回全国棚田(千枚田)サミット」が開催され、NHK大河ドラマ『天地人』のタイトルバックでも使われたこともあり、写真愛好家ばかりではなく、今では一般的な観光客も年々増えている。

星峠の集落の中で農家は29戸で、1戸あたりの耕作面積は2ヘクタールと、一般的な日本の棚田耕作農家としては規模が大きい。耕作放棄地が多くなっているのが全国的な棚田地帯の景観だが、ここはほとんどの田んぼが耕され、耕作放棄が少ない。そこも棚田の美しさに貢献している。

有名ブランド米である魚沼産コシヒカリの産地でもあり、一部市販もされているが人気があるので、入手は困難だという。そもそも棚田米は、絶対量が多くないのだ。

このように星峠の棚田は、魅力が人を呼び込む力「棚田力」が高い棚田と言ってもいいだろう。

ちなみに「星峠の棚田」という名前もロマンチックだ。しかし昔は「峠の棚田」と言っていた。平成の合併で、他地域の同じ地名との混同をさけるため、「峠」から「星峠」にかわったという。